特殊メイク 特殊造型工房ソイチウム・ever

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webmark5.jpg                          特殊メイクアップアーティスト梅沢壮一が 主宰する工房です。

2009.6.28

「パテオ」


辻一弘氏に紹介してもらった何軒かの工房へ社員採用を求め売り込みに回りましたが、当時は
いわゆる「バブルがはじけた」ばかりで、どこも募集などしていませんでした。それでもそのうち
行く先々で、「あそこで今手伝ってくれる人探しているよ」などと紹介してもらえるようになり、
次第にアルバイトでの参加が増えて行きました。そして一つの仕事が終わるとまた知り合いになった
人から次の会社を紹介されてという形で、気が付くとフリーランスとしてキャリアを積み上げ始めて
いた訳です。
 そんな中、まだ始めて1年も立たない時に、その辻氏から「パテオ」という映画の手伝いで呼ばれる
ことになりました。第1、2話はテレビドラマで、3話目は劇場でという試みを持った娯楽作(?)で、
「バリ島に住む約180才位の伝説の老人」というキャラクターを作るというものでした。
顔はもちろん、手足も露出する部分は全てメイクするという事で、私は足のアプライエンス用の
彫刻等を担当させてもらい、そして撮影場所であるバリ島の現場にもアシスタントとして同行させて
もらう事が出来ました。

 そしてここで思わぬハプニングが。

 元々の予定では、我々がメイクする日にちは2日間。到着して3泊4日程で帰国する筈でした。が、
バリに到着すると迎えのスタッフの方から「様々な事情により現在撮影がストップ中で、数日は
再開しそうもありません」との事。実は我々が到着するかなり前からスタッフ内で複雑なトラブルが
起っていて、何人かが日本へ帰国するという事態になっていたのです。
 急遽日本から飛んで来たプロデューサーも含め、ホテルの大部屋でスタッフ、キャストが全員
集まり、喧々囂々の大会議。更にその場で荷物をまとめて帰る人まで出ましたが、最終的に残りの
撮影をなんとか協力し合って終わらせましょうという事で翌日からようやく再開。しかしその時点で
我々はとうに帰国予定日を過ぎており、辻氏は次の仕事の為それ以上の滞在は許されず、つまりは
メイクを施す事も出来ないという事態になったのです。
では誰が替わりにそのポジションを引き受けるのか。
特殊メイク部は我々以外に、やはり辻氏から別のシーン用の作り物を頼まれて既に現地入りしていた
スタッフが2名いました。辻氏は何年かキャリアのある彼らのうちの一人に替わりにやって欲しいと
打診しましたが、その責任を負う事は出来ませんと彼は頑に拒否。私は黙って隣で聞いていましたが、
内心は「オレにやらせてくれ、オレにやらせてくれ」と強く念を送っていました。
今考えると、まだ碌にプロの撮影現場を体験してもいない新人が、重要な仕事をホイホイと請け負おうとする軽々しさにちょっとゾッとしますが、でも何故かその時の自分には妙な自信があったのです。
それが逆に何も知らない若造の強みでありました。

 そして、そのポジションは自分の所に来ました。

 色々な意味でかなり荒削りな作業となりましたが、実際メイクはなんとかこなし、穴埋めの役目を
果たす事が出来ました。
この2日間だけでとても貴重な事を多く学びました。

 辻氏とホテルの部屋でアプライエンスに色を塗っていた時に嗅いだ、PAX(特殊メイク用の
ペイント)の匂いやフォームラバーの匂いは強く自分の鼻腔に、脳に刻まれ、今でも時々作業を
している時にそれら独特な香りが、ふとその頃の新鮮な気持ちを呼び起こさせてくれるのです。

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撮影がストップ中、辻氏と役者の中島陽典氏と共に島内を散策。
味のある映画館が魅力的でした。



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(c)松竹株式会社


本物の老人の様に見えて、でも何かが変だと思うらしく、子供達がとても不思議そうな
表情で囲んでいました。